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●空白の一瞬を超えて
「鳥人間コンテストでは、スタートの成功の可否が勝因の第一です。つまり、乗り込みのタイミングですね。うちの『浜燕』の場合、規定の助走距離10mをギリギリ使い、可能な限りの助走をつけてプラットフォームを離陸するのですが、空中に飛び出してから、機速が出て、沈み込んだ機体が自然に引き起こされるまでの、たぶん1秒にも満たないまったく空白の瞬間、何度飛んでもこれが一番怖い。頭の中が真っ白です」
開口一番、名代の鳥人間は離陸時の気分をそう表現した。だが、すぐにこう続ける。
「でも、体が自然に反応するのでしょうね、わずかに機体が引き起こされる感覚がある頃には、もう自分の手が無意識に操縦桿を引いています。そうなればしめたもの、操縦は完全に我が手中にありという感じで、ガゼン自信が湧いてきます」
●最高の機体で、最高の滑空を見せる
「岡山にいた時、読売新聞で第1回鳥人間コンテストの予告を見て、書類だけは出しました。こんなおもしろいことやるんなら、絶対出てみようと。しかし応募時期が大学受験のときで、忙しくて機体を作る暇がなく、書類参加だけでした」
その思いが実現したのは、1982年第6回コンテスト。大学航空部でグライダーに乗り始め、就職した先が関宿滑空場だった。先輩整備士・鈴木常正氏ら所有の機体で参加した。鈴木氏は、第1回優勝機の製作者の一人だ。
「僕はグライダーパイロットです。当時のパイロットはハンググライダー出身が主流でした。鳥人間の飛行はグライダーの滑空そのものですから、正直言って負けていられるか、という思いはありましたね。飛ぶからには最高の機体で最高の滑空を見せたい、それがグライダーパイロットとしての誇りだ、と」
結果は、離陸後失速、キリモミ状態で水中に墜ち、記録は13mに終わった。だが翌83年の第7回には同じ機体の翼面積を大きくして参加、133mを飛び5位に入賞、前年の雪辱を果たす。以後、優勝への挑戦が加速していく。
●ポンコツ号の頃
岡山県倉敷市郊外の清音村、そこが福森さんの故郷だ。山に囲まれた静かな村は、倉敷市の中央を流れる高梁川の上流にある。その河川敷で手作りのラジコン模型飛行機に熱中した少年時代、空はずっと福森さんの憧れの場所だった。
「手投げのラジコン飛行機です。最初は要領がわからず、何度やってもオーバーコントロールです。すぐに失速、墜落・大破を繰り返しました。模型屋のオヤジさんに聞けば、きっとすぐに飛ばせたでしょうね。でも聞くのはイヤだった。絶対自分の力で飛ばしたい。だって、何でだろう、何でだろうって考え考えやってみるって、楽しいじゃないですか。その楽しみをむざむざ他人に渡せますか」
福森さんは、いたずらっぽく笑った。最初のラジコンは、中学2年のとき作ったポンコツ号というキットの格安機。中学1年の時、近くの小川でこぶし大のエンジンを拾った。水中にあったのでひどく錆びついていたが、全部分解し、1年かかって組み立てた。給油し点火すると、ものすごい轟音で廻った。
「やった!という達成感、これですね。苦労したからこそ感動も大きい。それがポンコツ号のエンジンです。さすがに今はもう動きませんが、まだ持っていますよ」
●未知なるものこそ
「琵琶湖の空は広い。そこに向かって飛び出すとき、僕はいつも何か新しいことに挑戦している。たとえば、リュビッシュ博士の地面効果という飛行の理論があります。地面すれすれに物体が飛行するとき、地面の影響で物体に揚力が発生する、というものです。琵琶湖で飛ぶときは、これが水面との間で発生するはずだと考えつきました。確かに、飛び出して機首を引き起こしたとき、背中を押されるような感覚がありましたからね」
1992年の第16回参加の愛機「浜燕」は、この理論を導入して製作した。この時は主翼がパラリと折れてしまい失敗だったが、以後改良を重ねた。
「水面効果は確かに実証されて、今は水面すれすれに滑空していてもまったく不安を感じません。条件さえよければどこまでも飛べる。自信ありますね。今回も400mは絶対固いと思っていました。失敗は、離陸時の風の読み違いです」
地面効果を応用した飛行法の導入は福森さんのアイディアで、今では鳥人間達の常識となった。こうした独得の発想が、厳しい予備審査を突破して15回もの出場を可能にする。
機体の製作過程では、設計時の考え方を修正せねばならない場合も多い。よく飛ぶためには、むしろそうした最終的な調整が大きな鍵を握るそうだ。
「紙飛行機を作るとき、翼端をハサミで切っては調整して、一番よく飛ぶ形にしますよね。あれと同じ。いつも試行錯誤です。でも紙飛行機のように、作る時も飛ばす時も一人でっていうわけにはいきません。チームハマハマはだいぶ高齢化してきましたが、今年の雪辱戦はぜひやりたい。いい仲間と、心を一つにして目標に向かう。未知なるものこそすばらしい。そう思って、僕はいつも、前へ前へと進みたい」
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