後藤加代子の悠遊レポート・04

竹とんぼ夢中人 
不滅の日本記録、飛距離125.5m!
東久留米竹とんぼ協会会長 奥住 實さん
Profile
奥住 實さん
Minoru Okuzumi

▲竹とんぼを飛ばす瞬間。第15回新潟県刈羽大会・滞空部門の競技で。
1939年生。

東京都東久留米市在住。農薬をできる限り使用しない減農薬果樹栽培を手がけ、現在は数品種の梨とブドウ果樹園を経営。

自然環境の保全のほか、地元の伝承囃子の後継者育成、竹とんぼ作りを通しての青少年教育など、地域リーダーとして活躍中。

国際竹とんぼ協会会員。東久留米竹とんぼ協会会長。武蔵野の面影濃い市内柳窪の森に、母、妻、3人の息子と住む。

「今年も梨はいかがでしょう?」。果樹農家・奥住實さんの友人・知人宅には、毎年8月になるとそんな電話が入る。注文量の多少にかかわらず10余年、欠かさず声が掛かるという。梨の旨さには定評がある。とにかく甘い。 そしてその滴る果汁の豊かさといったら、他に例を見ないほど。この人、竹とんぼの達人。国際竹とんぼ協会の全国大会で16年間、毎年のように優勝をさらってきた。保持する日本記録(距離)を超える人がなかなか出ない。

●東久留米竹とんぼ大会16年のあゆみ

やー、大病に掛かっちゃいましてね」

竹とんぼを語るとき、奥住さんは少年にもどる。

とんぼに触れたのは1984年秋。子供の通う小学校でです。こんな竹とんぼがあったのかと、ともかく驚きましたね。飛ぶは!飛ぶは! 第一がこの形ですよ。飛ぶべき姿をしているでしょ?」

扇風機の羽のような翼を持つ竹とんぼ。竹の翼と軸、軸を固定するための接着剤だけで作られており、極めて素朴だ。しかし翼型はいかにも飛びそう。まさにプロペラ。

供の通っていた東久留米市立第十小学校では、17年ほど前から、手仕事を通じて子供たちのモノ作りの能力を引き出す試みを続けています。竹とんぼ作りはその一つです。当時、図工教師だった山本先生が始め、みんなたちまち夢中になりました。85年2月には、それまで佐渡で開催されていた竹とんぼの全国大会を、ウチの小学校でやったほどです」

86年には、山本先生らと鹿児島での第4回全国大会に参加、奥住さんは、純竹部門で高度21mを獲得して初優勝した。

第十小学校は、父母・地域有志の協力のもと、東久留米竹とんぼ大会の会場となって16年が経つ。大会はいまや全国にその名を馳せる。毎年夏休みの最初の日曜日に開催され、40名余の名人たちが集まって、秋の全国大会前哨戦となる。今年は7月22日、一番遠くは佐賀からの参加だった。


●信念を実践

奥住さんの住む柳窪地区は昔からの樹木が多く、ケヤキの大木があちこちに残る。竹とんぼはその梢を目指して飛ばす。それを越せば、高度はゆうに30mはあるはず。飛ばしては追いかける。夕暮れるまで、大人も子供も緑の森で遊ぶ。

しいですねえ。高さは距離と角度を測って計算します。私の距離の最高記録は、98年新潟県刈羽の第15回大会での125.5m。記録はまだ破られていません。滞空の最高は、93年北海道置戸(おけと)の第10回大会で、15.99秒。この時の距離88m。この2種目で優勝でした。大会参加者の誰もが、自分ができる役目を担って、竹とんぼを追いかけて一日中走り回ります。いやあ、一年中ってとこですかね」

少年のような奥住さんは、しかし、頑固者である。環境破壊には厳しい態度で臨む。その姿に周囲の誰もが魅せられている。「減農薬」と言葉では簡単だが、それがどんなに過酷な作業か、みんなよく知っているからだ。

に付く虫は一つ一つ手で取り除きます。梨はなぜみずみずしく甘いか。土を1メートルは掘り下げ、天地返しをして、常に自然のミネラルや落ち葉を鋤き込むからなんです。そうすれば、保水効果も当然大きい。農業の基本を守ってるだけですけれども」

梨園の土はふかふかとして、絨毯を踏むようだ。


●真理は自然の中

思い出の優勝機には一つ一つ名札をつけ、日付、大会名、開催地、記録を書き込んで、大切に小箱にしまってある。

技機である以上、記録を狙います。しかし、例えば空力も、本からの知識ではなく、実践が教えてくれる。これからの飛行機は後退翼ではなく前進翼だという研究が新聞に載った16年ほど前、竹とんぼの仲間は、やっぱりそうか!と思いましたね」

よく飛ぶ竹とんぼへの改良を重ねて、その理論を納得するに十分な域に達していたということだろう。

理とか公理とかいったものは、自然界に元々存在しているんですね。我々が気づかないだけで。要は、そこへどのようにして行き着くか、ということでしょう。一生懸命やっていれば、あるいは方法が正しければ、真理へは自ずと導かれるものだろうと、私は思いますね」


第15回新潟県刈羽大会・滞空部門の競技風景。

巨大竹とんぼを飛ばす。
奥住さんら制作のイベント用竹とんぼ。本機は翼長2m、翼の最大幅130mm、軸長2m、中京テレビの依頼により、製作から飛行まで番組収録した。発射機を使用、大人3人が全力でロープを引き発射する。3回飛ばし3回とも成功した。

竹とんぼ製作に参加したTOKIOのメンバーたち。奥住さんの工房「多恵屯房」で。


◆竹とんぼの競技

高度・距離・滞空の3種目を、竹と、翼を固定する接着剤のみの純竹部門、翼の先端に金属などを象嵌する象嵌部門とに分かれて競う。竹とんぼの形と大きさは、翼・軸ともに、種目により違いを持たせる。記録は、自身の腕力・体力を考慮しバランスの良い機体を作ること、飛ばし方に習熟すること、更に言えば、自身のパワーを無理なく無駄なく竹とんぼに移すこと、が決め手。
◆国際竹とんぼ協会

本部は東京。1982年、工業デザイナーの故秋岡芳夫氏らが始めた。全国大会は第2回までは佐渡で、以後は全国各地で開催。19回目の今年は富山県が開催地。会員数は流動的だが、現在約500名。機関紙名は「夢中人」。昨年はシアトルにも遠征した。

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写真提供:奥住實氏