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ヤートセー ヨーイトナ さっきから夕焼けの雲を眺め、観世音との朝の議論を思い出している。なんだか鼻の先であしらわれたようで閻魔様は気分が悪い。まるで赤子のように諭された按配だ。いくらなんでも、「おめたち知らねかえ」と言わんばかりは無いだろう。 それというのも極楽浄土は地獄に較べてまるでヒマだ。百人の亡者が来ると極楽に行くのはせいぜい二人である。後の九十八人は間違いなく地獄にやってくる。 極楽には観世音も菩薩も高位高官がたくさんいる。ゆとりがあって笑って暮らせるが、地獄は押すな押すなで息つく暇もない。担当は名も無い赤鬼とか青鬼の有象無象だ。不公平も甚だしいから、小さな罪のものは極楽で引き取ってもらいたいと掛け合ったのである。 そしたらどうだ、例の薄ら笑いを浮かべて取り付く島がない。衆生済度が仕事で忙しいのだそうだ。理屈はそうだろうが簡単に割り切れるもんじゃあない。罪は罪だと言いはり、天上界は官僚主義がはびこっている。だから誰にでも好かれる連中は虫が好かん。第一オトコなのかオンナなのか、気色が悪いったらありはしない。 この間も血の池地獄に蜘蛛の糸なんか垂らして、生前蜘蛛を助けたオトコを極楽往生させようとしたそうだ。ところが亡者どもが糸を見つけて必死にオトコの後を追い、次々にぶらさがって糸が切れそうになった。オトコは慌てて下の亡者を蹴ったが、糸が切れて元の血の池に堕ちたそうだ。仏心を忘れた仕様のないオトコということになっているが、何とも罪作りな話ではないか。暇つぶしならほかでやってもらいたい。何が観世音だ。しかもこの閻魔には何の相談もなかった。 騒がしい声が近づいてきて閻魔様は我に返った。ここは閻魔庁のお白洲だ。不平や不満はあっても、亡者どもの前では威厳を作っていなければならぬ。 赤鬼に引率されて一団の婆様たちがお白洲に入ってきた。辺りを見回し仲間同士のおしゃべりに屈託がない。地獄に来た反省などかけらも無いのである。 「地獄はオソロシとこだと聞いていたすが、そんなことねすな」 「うるさい! ここは地獄の一丁目だ!」 「あえ! はんかくせ青鬼だごと」 若いときはさぞ美人であったろう色白の婆様、青鬼の剣幕にもどうしてどうして一向にメゲてはいない。下手な冗談が受けたらしく笑いのウズである。青鬼が怒りで赤鬼になった。 左の青鬼が進み出て閻魔帳を見せ、「このオンナどもは秋田の亡者です」と説明した。「さすがは秋田、皆むかしは美人だったと思われますが今ではシナビてどうしようもありません」。 「この中に夜這いをされたものはいるか。いたら手を挙げろ」 さすが青鬼の剣幕にただならぬものを感じ、婆様たちは二人を残して後の全部がおずおずと手を挙げた。 やりとりを見ていた閻魔様、「全員を仕置き場に連れて行け!」と厳かに宣告した。 30ちょっと前のオンナが手を上げなかった。美人だし楚々とした風情といい、いかにも善良そうだ。とうぜん極楽回しと思っていたから青鬼は意外である。 「ウソツキは舌を抜け!」 |
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