Minoru Matsuba vs Toyoaki Miyata

012

松葉 稔

宮田豊昭

スカイネット・ワン編集部

チャンス・ボート F4U コルセア
Chance Vought F4U-4 Corsair
F4Uコルセアと視界

これは非常に単純なんだけれども、かっこいいんですよ、圧倒的に。

羽が曲がっているユニークな形の戦闘機ですよね。

ええガルタイプ。やっぱり人間てのは、素直なやつよりも癖のあるやつの方がおもしろいんでね。昔少年冒険小説で「怪鳥何とか飛行艇」なんてのがあったんですよ。それもやっぱりガルタイプでね。

ただ真っ直ぐの羽のやつはおもしろくない。F4Uも同じで2,000馬力の大出力のエンジンを積んで、速い飛行機をつくる。だからプロペラが大きくなる。大きい直径のプロペラをゆっくり回した方が効率がいい。そうすると脚の長さが問題になる。
脚を短くするためにはどうしたらいいかという問題が出てくる。羽を下げちゃえば足は短くなるだろうってことで、逆ガルにした。安定は悪くなるけれどもやむを得ない。ということでああいう形ができたわけです。コルセアは飛んでいるとやたらにカッコイイんです。いまでもアメリカでも人気がありますよ。

ところが、安定がよくないんで艦上戦闘機としては見事に失敗しましてね。コルセアで航空母艦に降りたがる人なんて1人もいない。恐ろしくって、もうごめんだってわけ。

へえー、そんなに怖かった?

低速にして逆ガルの癖がある。つまり降りてこようとすると羽の曲がったところから剥離して、着陸性能がひどく悪かったんですよ。その上にもってきてパイロットの視界が悪い。これは、やっぱり問題は燃料タンクなんです。

もともとは機銃が2挺かな?の要求だったんです。ところが戦争が始まって、機銃を6挺にするということになった。片翼3挺ずつ積もうとしたら、そこに燃料タンクがあった。それで燃料タンクをどこへ積むかという問題になった。
そしたらね、アメリカ人は凄いの、重心の一番いいところに燃料をおいて、「パイロットは後ろ後ろ」って、操縦席を後ろにしちゃった。だからね、視界は悪かったと思う。空冷星形の機体は、降りてくるときには航空母艦の滑走路が見えるんだよ。

そしていざラウンドアウトすると、何も見えなくなっちゃう。だから最後は、念仏を唱えながら「神様仏様どうか真っ直ぐ着陸させて下さい」ってことですよ。

神頼みですか?

うん、そういうのに耐えられる神経ってのは、アメリカ人だからあったんだね。日本人だったらね、もう頭から湯気出して、こんな飛行機で降りられるかー! っていったと思うんだ。だいたいそんなに操縦席を後ろに下げてね、どうするんじゃい。と。

だから結局、後は空母に搭載するのはやめちゃって、マリーン、海兵隊で陸上機としてほとんど使ったでしょ。そうなるとまた役割や構造がちょっと違ってくるわけ。でも、見た目には操縦席を後ろに下げたのがまたカッコイイのね、あれ前にあるとね、そんなにカッコよくないわけ。
それは、死ぬ立場と死なない立場の決定的な違いね。

いやホントに、とんでもない話なんだけれど。
パイロットにとっては命が掛かっているのですからね。

自分の経験で話すと、T-6は星形9気筒のエンジンで前が見えない。タクシーしたって、タクシーウェイが見えない。タクシーウェイはランウェイよりもっと狭いんだけれど、真っ直ぐ行かれないんだよね。行ったって分かんないんだから、それでその次の課程はT-33。 そしたらあの飛行機は前がバーッと見えるんだね。で、操縦席も思い切り前の方にあるの。こんなにいい飛行機が世の中にあるのかって感激したくらい。
宮田さんの体験談はスカイネット・ワンの達人の動物誌「虫一番」に書いて下さいましたね。
そう1操校のT-34メンターの時もソロはどん尻の方だった。2操校のT-6の教官に、「なあ宮田、お前なあ100回も離着陸してな、それでソロに出られないというのは馬鹿だぞ」って言われたのよ。で、どん尻120回でソロに出た。だからそれまで、自分は下手だ下手だと思ってたのよ。

だから3操校のT-33も同期生の中でどん尻だなと思っていたの。それにペアっていうのか、教官と学生はみんなくっついてる、だけどどういうわけか私はしょっちゅう教官が替わる。ひとりロンリーマンなの。ある日、教官のアシスタントコマンダー、防大の先輩が乗ってきた。
「ああ、また教官が替わるのか」とか思って、ビューッと1回飛んで着陸したらさ、「帰れっ」て不機嫌そうに言うんだよ、後ろにいるから見えないんだけどね。仕方がないからランプインして、エンジンを止めようとしたら、「止めるな」って言うのよ。その時初めて後ろを見たら、教官が降りてっちゃうんだね。あれ、どうなってるんだろうと思ってたら、整備士がすぐ来て教官の降りたところを整えてる。

で、「宮田さんよかったですね」なんて肩たたかれてさ、ドドッどうなってんだと‥‥。教官がきて、「行って来い」って言うんだよね。まさか1人でできませんとも言えないし。

心の準備ができてない。

自分では下手だと思っているから、さっきも自分で着陸したような気がしてなかった。どうせ教官がなんかやってんだろうと思ってるから、心の準備も何も‥・。

ランウェイエンドにモビルコントロールという着陸専門のアドバイスをするところがある。そこにソロに出した教官は必ず詰めてなきゃいけない。教官はジープに乗ってタクシーウェイを行くわけよ、私はその後ろをトコトコトコトコ「行っちゃうけどね、大丈夫なんかいな・‥。
いやだって言いたいけど、言えないしなー‥‥」と思いながらタクシーしていく。そしてランナップして、すぐそこのモビルコントロールを見ると教官が真剣な顔をしてこっちを見ているんだよね。それでヤーッと離陸した。困ったなーと思いながらね・‥。

そしたら、なーにちゃんと着陸できるじゃない。「あー、なんだ、大したことないや」って‥‥(笑)。視界がいいと、そのくらい違うということなんだけれど。
なるほどね。

[ヨシのズイから天井を覗く!?]

T-33は33回目がソロだったの。その前まではT-34もT-6も100回ぐらい乗っているんだよ。

それは凄い。トップで単独飛行。

同期生の中でトップだったの。つまり見えるということがね、戦闘機にとっては決定的なんですよ。だから視界にこだわった日本のパイロットの話は痛いほどよく分かる。メッサーシュミットBf109をあげたけれど、この飛行機はね、意外と視界は空中で悪くなかったと思うんだね。 というのは、あれは倒立V形のエンジンを付けてる。それはメッサーシュミットの設計のポリシーじゃないかと思うんだけど、そうすると上が細いんだよね。だからキャノピーの前に出っ張るモノがないんですよ。だから意外と見えたと思うんだよね。背丈は低いけれど。

イギリスならパッカード・マーリンでしょ。あれはV形だから、頭のところが平らでね割合幅が広いわけよ。同じ液冷でもね。

うん上が太くてね。メッサーシュミット262というジェットの戦闘機がある。胴体の特徴・おむすび形のことは、いろんな人がいろんなこと言ってるけれど、あれは視界を問題にしたんだろうと思うんだね。

よく見えるんですよね。

とにかく星形エンジンで、バーッとラウンドアウトして、滑走路が見えなくなったときは本当に神様仏様ですよ。

96艦戦もそうなんですよ。あれ星形エンジンで、またさらに大きいものだから、やっぱり前が見えない。だからエンジンとエンジンのシリンダーの一部の間をくって、溝をつくってある。何でそんなことをしたのかというと、それでも見える方がいいんだということで。そういう涙ぐましいことをやっているわけ。だから、やっぱり前が見えるかどうかということは切実な問題なんですよね。

それで思い出したけど、ベル212というヘリコプターで資材輸送をやった。ベル212にはVFRのパネルとIFRのパネルがあって、IFRはいろんなモノがくっつくから大きいんですよ。俄然前が見えない。資材輸送をやるときは前の下が見えないとダメなんですよ。ところがパネルが大きくてどうにもなんない。そこで、使わない計器を外しちゃって、そうすると計器板に穴があくでしょ。その穴から覗いて下を見た。

それは、凄いアイデアですね。

だから松葉さんが言われた96艦戦のシリンダーの穴から覗くっていうのは、藁をもすがるというかヨシのズイから天井を覗くっていうけれど、まさにそれ、ものすごくよくわかる。これ1重の星形だから隙間があるんだ、2重の星形だったらねもう隙間ないからね。前見えない。

ああ、そうですね。

今日はパイロットになる心得みたいなモノを教わったような気がします。

だからね、設計者の人にはそんなことはどうでもいいと思っていたことが、パイロットにとってはものすごく大事なことだということがある。そうすると、そういうことで、気が回るようになるためには、自分で飛んだことがあるという人でないと、本当のモノがつくれないんだよね。

ジェット戦闘機
無理があるけど・・・

そういえばジェット戦闘機は検索エンジンからも出てこないのですが、どうしてでしょう。

基本的には同じなんだよ。当然聞かれると思った。嫌いな飛行機を5つあげろとか、松葉さんも宮田さんもみんなプロペラがついていると、付いてない飛行機で好きなやつを5つあげろと言われるんじゃないかと考えた。だから一応ね、ほんとはないんだよ。ないんだけど、無理無理考えた。

ありがとうございます。

すぐ先回りするというのが悪い癖なの。

いや素晴らしいですよ。勝てますよ勝負に。せっかくですから1〜2機あげて下さい。

一番好きなのはMiG-15。それからミーチャンハーチャンだけど、F-86。ハチロクは、明日この飛行機に乗ろうと一生懸命努力した時代あったからね。あと、言うとすると、F-105なんていうのもいいね。
105ですか。ちなみに松葉さんは?

僕はどうも食い合わせがよくないんで、精密図面集でもジェット機シリーズはだいぶ四苦八苦してね。でもまあ、やっぱり宮田さんと同じMiG-15はいいですね。形的にも飛行機の考え方そのものもね。I-16と発想がよく似ているんですよ。要求されるワンポイントに焦点を絞ってつくっちゃう。 余計なことは考えないシンプルな発想で。そうするとそこはズバ抜けて素晴らしいモノができるでしょう。そういう点でMiG-15はいいし、あと言うとすれば、F-104です。あれはどう見ても飛びそうもない飛行機が飛んだという恐ろしさね。あの羽で本当に飛べるの? っていまでもそう思ってる。あれは驚きましたね。
前の対談に戻る

次は「日本の航空技術と航空文化」