Minoru Matsuba vs Toyoaki Miyata

008

松葉 稔

宮田豊昭

スカイネット・ワン編集部

死ぬ立場と死なない立場

日本の戦闘機乗りが、ものすごく視界にこだわったっというのは、敵を早く発見するためには、見えなくちゃだめだから。要するに日本では、パイロットが目で見て、発見して占位するというふうになってるの。ところがイギリスは、発見と占位はレーダーでやるというふうになっていた

日本はレーダーがなかったんですか。

いや船もそうだし飛行機もそうだけれど、目で見てやるという以外のことは、考えつかなかったんだね。むしろ考えるのをよそうと意図的にしたようなところがあるのね。

それはどういうことですか。

とにかく、自分の目で見つけろ! ということ・‥。イギリスはレーダーで見張ってて、ドイツの戦闘機が来るぞって、待ち受けているわけですからね。

バトル・オブ・ブリテンの時には、スピットファイアの2型とか5型なんだけれど、あの飛行機を見ると、その時すでにIFFがあるわけですよ。IFFというのは敵味方識別装置。

何でそんなものがくっついているかというと、レーダーの画面で見ると、ドイツの飛行機もイギリスの飛行機も一緒くたになっていて、どれがどれだか分からない。

味方はこれだと判別できる装置がIFF。でも日本の戦闘機にはそんなもの最後までないからね。IFFのことはどの国も絵にも解説書も書かないからね。

でも、IFFがあるかないかというのは、飛行機の強いか弱いかに決定的にきいてくる。
クロステルマンの戦記を見ると、イギリスのレーダーはガバレージが150キロくらいで、当然フランスも入っちゃうしドイツのはじっこも入るんだよ。スピットファイアが行くでしょ。

すると必ずIFFで見てて、「お前の後ろのところに敵が近づいているとか、右の上にドイツの戦闘機がいるから気を付けろ」って言われて、パイロットがそっちを見るとそこに敵がいる。つまり発見と占位にもの凄く役立っている。

それに比べると、レーダーも無線機もない日本の飛行機は、弾に当たってから「ああ、敵がいた」って。

エッ、それほど技術力の差があったんですか!

戦闘のシステムというのはね、いま宮田さんがおっしゃったように、まず、飛行機という武器、機械がある。それを操縦して戦うパイロットがいる。それにもう1つ、それを周辺からサポートする支援システムがある。この3つが合体すると非常に強くなる。 レーダーじゃなくても、もっと規模が小さい無線機の性能が良ければ、編隊で飛行中でも「そこ何番機、後ろに敵がいるぞ、静かに回避せよ」というように味方同士での通信ができれば、ほんとに助かるわけですよ。それが日本はうまくいかなくって。
坂井三郎の書いているいろんなものを読んでもね。最後まで無線機をそれほど評価してない。「空中戦をやってる最中に、無線機なんか使えない」っていってる。彼ほどの人でも空中戦=機動だと思っている。

やっぱり個人戦の発想ですね。
発見・占位・攻撃・機動があって、機動をやっているときには、無線機なんか使えるわけがない。だけど、発見・占位・攻撃まではね、無線機を使えるんだよね。それがあるかないかで決定的に違ってくる。 だから「ああ、この人でさえも、無線機をそんなふうにしか思ってないのかな」と思ってね・‥。サッチ・ウイーブは無線が前提ですよ。

日本は戦闘の支援システムづくりに決定的な問題があった。
戦闘機が強いとか弱いとか言うけれどもね。そういうものを含めて強いのか弱いのかということだから簡単には言えないんだよな。

そうですね。十分な良さを発揮できる環境が整わないと。

名戦闘機とか言われるのは、よほどいろんな条件がうまくいって成功したものが評価が高いことになるわけで、ラッキーというか運もその中に入るでしょうね。逆に言えば不運なやつもいますよ。本当はもっといい働きをしていいはずのものがダメだったり。

そうですよ。アメリカだったら当然撃墜されなくてもすんだだろうという状況。要するに、前に敵機がいる、その後ろに日本の戦闘機がいて、追いつめて、あとまさに射撃するところというときに、その後ろから、足の速いアメリカの戦闘機が追ってくる。 その様子を味方で見てたやつがいても、「お前やられるぞ」って叫んだって、伝えようがないんだから、撃墜されるのを見てなきゃいけない。そういうふうにして撃墜されたのがいっぱいある。
カモみたいですね。敵は分かっているわけですから、たまりませんね。

だから支援設備があるかないかで、戦闘能力の発揮の仕方が違ってくるわけですよね。
通信機の性能やレーダーの性能とか、またどんな通信機がつくられていたのかということについては、日本の飛行機ではデータがないね。要するに飛行機にはそういうものはいらないんだというのが頑としてあったんだね。いまでもそれは気にくわない。
そういう問題はありましたね。もちろん通信機の性能が今一つ良くなかったこともあって、使い物にならないようなものは、積んでるだけ目方が重いですから外しちゃえって、外しちゃった機体も随分あった。

[見てなきゃ、見えなきゃ!]

戦争の始まるときから、始まってからもそうだけど、それはもう大事な機材だから、何とかしてそれを発達させるとか、そこに人をつぎ込むとかね、そういうことを全くやってないんだよね。だからね、ダメですよ。戦闘機だって、堀越さんとか東大出の頭のいい人をどんどんつぎ込んで、性能のいい飛行機をつくったんですよ。

いくら性能が良くったってね、見てなきゃ、見えなきゃ、やられちゃうんだから・‥。無線機が大事なんだということを、用兵者とか海軍とか陸軍とかが言うべきだったんだよね、ほんとうは。
でもそれは、いまでもやらない。つまり二義的と認めたものは、ほとんど日本人はやんないね。いまの経済産業省や国土交通省で問題になっていることとか、全く同じ。金融庁のやり方とか、財務省のなんとかさんが喋ってるのをきいてもね。太平洋戦争の時の大本営みたいなことを言うな!って・‥。

いや、もっともらしいことを言うんだよ。でもそういうふうには行かないんだよね。あの時、あんだけこてんぱんにやられたのにね。いまだに同じじゃないかと。それがね、モノを書く原動力になっている。

まあ、評論するのは楽なんです。実際の当事者はなかなかね。

基本的に死ぬ立場と死なない立場って言うんだけど、本社がポリシーを決めて「こういうことでこういう仕事をこういうふうにやる」って太平楽なことを言うんだよね。

パイロットだけが事故起こして死んじゃうかもしれない立場だから「お前らは死なない立場だから、そういうことを言うけれど、オレは死ぬ立場だから、そんなもの認めない」とよく言った。

戦争で戦地に行けば、最後は陸戦かなんかになって死ぬでしょ、整備士も操縦士も前線に出てる人間も、みんなそれぞれ死ぬ立場と死なない立場がある。
同じ人間として、死なない立場は、死ぬ立場をどこまで理解するかということで決まるんだ。

その視点でみると欧米は、死なない立場というのが、完全に独立していないんだよね。たとえば、飛行機のデザイナーを考えると、ボーイングだってビーチだってステアマンだってみんな飛べる人が飛行機をつくっている。

そうですね、パイロットですよね。

一番有名なのはドイツのクルトタンクですよ。ところが日本は飛べる人が1人しかいない、基本的に中島知久平さんだけ。あとはね東大出の秀才ですよ。一種の官僚組織の中の秀才だから、堀越さんの飛行機を見ると明らかに限界がある。 ものすごく優秀な飛行機をつくるの。海軍が出した仕様書の線があると、その線を超えちゃうんだよ。そこまでつくる堀越さんは凄い。でも仕様書自体をごちゃごちゃ考えるということは・‥。

言っても、なかなか通らないこともあったろうし、おそらく技術者としては、すごく矛盾を感じていただろうし、こんなひどい仕様書を作りやがってと、心の中では思っていたと思いますけれどね・‥。

★宮田豊昭の「もう一言」==>GO!!
前の対談に戻る

次は「飛燕と雷電」